
中年親父の苦悩
先日、取引先の社長さんと話をする機会がありました。「英会話の先生相手に身の回りのいろんなことを話しているんだ」と言うのです。「向こうは仕事だからちゃんと聞いてくれるよね」そして続けます。「だって、普段我々(年寄り)の話なんか誰も聞いてくれないじゃないですか」と。普段からがっきー社長が尊敬している立派な人なのにそんな扱いなのか…と、世の中の無常に肩を落として帰って来たのを覚えています。
時代はどんどん流れ、自分の今ハマってるものがあっという間に前時代のものに
なり、培った自分の感覚が正しいのかもわからないまま、誰とも共有できない今日この頃…安堵感を得る同世代の人との会話も徐々に減っていき、世の中のおっさんは孤独が日常化するのであります。世紀末救世主として活躍したケンシロウは未来の人だったのに、もう20年以上前の人になりましたし、携帯すらなかった時代の冴羽僚の実写映画にUberEatsが出る違和感…
そんな神谷明さん(ケンシロウや冴羽獠の声を当てた声優さん)に青春時代を牽引してもらったがっきー社長が率いるデザイン事務所では、今日も若いデザイナーの作品を見て良し悪しを指摘するわけですが、それが前時代的な感性をゴリ押ししているのか、普遍的なデザインの基準から的確な指示を出しているのかは未だ謎です(笑)。
「若い人よくやるよねー」
今回は、若いデザイナーがやりがちなデザイン処理をいくつかあげてみます。
①ベタなグラデーション
…これはWeb(RGB)の影響もあるかと思いますが、印刷物の場合、ビビッドなグラデーションというのは思ったよりキレイに出ません。画面では美しく見えるので無理もありませんが…また、その上に載せる文字とのコントラストも大事です。古参ならそもそも広い面でグラデーションは使用せず、どうしても必要な場合にはテクスチャや隠し味的な色の配合を考えます。

② 背景の写真を薄くしちゃう
…背景に写真を敷いて、その上に文字などを載せる場合。カラー写真をそのまま下に引くと、ごちゃごちゃして収集がつかなくなることは往々にしてあります。その際、配置写真の透明度を落として凌ぐというのは素人の技です。カラー写真の透明度を下げると彩度が失われ、写真としての良さが全くなくなっていきます。ですので、パーセンテージはそのままに、写真の美味しいところがきちんと見えるように配置した上で、他はぼかしたりして消し、文字の視認性を優先させます。大抵の写真はその写真の持つ「核」の部分が見えていれば、他は見る側が無意識に補完するものです。

③ 漫画の読ませ方が逆
…ツイッター漫画の弊害というか、基本マンガはセリフが縦書きなので、右上から左下に向かって読んでいきますが、スマホで見る際に、普通に左上から右下に向かってコマが進むことがあります。ただ、一時期よりはまた元に戻ってきたようにも思いますが…ちなみに、誌面の目線誘導も同様です。お客さまから、縦組みと横組みがめちゃくちゃで、読んでいる人がどの順番で文章を読み進めるのかわからないようなレイアウトの指示をいただくことがあります。ある程度意向を汲みつつ、あまりにひどい時は指摘させていただく、という風にしています。

④ 明るい背景に明るい文字を載せる
…当然文字は見えづらくなるので、そこにフチをつけたり影をつけたりするのですが、それはどちらかというと対処療法です。デザイン上狙ってその表現にした、というのでなければ、明るい背景には濃い色の文字、濃い背景には薄い色の文字を載せるのが基本です。

今の時代を蔑む親父にならないように
他にも細かいところはたくさんありますが、いろいろ考えてみると、若いデザイナーの問題というより「世の中の流れ」なのかな、とも思います。先日マーケティングの会社の社長さんとお話をさせていただいた際に話題に出たことをざっくりまとめると、昨今のデザインの流れは、Webデザインの影響が大きい、ということです。これは世の中にWebが広まったことで、経験の浅いデザイナーやそもそもデザインを勉強してこなかった人がデザインをするようになり、デザイン自体のハードルが下がったと同時にクオリティも全体的に下がってしまったということだと思います。もちろん優れたデザインを生み出しているWebデザイナーがいる一方で、という話です。
文字配置の作り込みの粗さや場当たり的なデザイン処理、リアリティの薄い画像加工…これはデザイナーがきちんと直す、というレベルには既になく、それをディレクションする人、依頼する人、それを評価する世の中全体のスタンダードの問題で、もはや誰にも止められない流れです。「若い人に任せて老兵は去る」or「だまって柔軟に対応していく」のどちらかを、がっきー社長世代は迫られている、ということなのかもしれません。ただ、これは先人が証明していまして、残っていくのは間違いなく後者です。その文字の美しさに固執した故にデジタルデータ化しなかった写研というブランドについてある方が語ったセリフが忘れられません。「彼らは時代に負けたんじゃない、プライドに負けたのさ」。